日本語の文法を考える
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大野晋「日本語の文法を考える」を読んだ。
ウチとソトの区別の意識が強い文化において、主にウチ同士で使われてきたために、字面の文脈に加えて、言外にある事実の文脈での情報伝達も多い言語。同じウチにいる相手とのコミュニケーションでれば、共有している事実の文脈を頼りにしながら、分析して普遍化するよりも感覚のままに反応し、単語も文法も発音もどんどん簡略化していくというのは合理的である。
ソト(奈良~平安の中国、鎌倉~室町の東国、明治の西洋)との交流によって大きく変化しつつも、根本に残っている特徴を捉えながら展開される、
- ガとハの違い
- 抽象名詞の少なさとオノマトペの多さ
- 人称代名詞の豊富さ
- ク活用形容詞は状態、シク活用形容詞は情意
- 倒置表現による強調→連体形終止による係り結び→終止形と連体形の一致
- ガとノの違い
- 動詞活用形の起源、簡単化
といったことの説明は、ありえそうなストーリーでとてもエキサイティングだ。
こういう変遷があり得ることを踏まえると、ラ変やナ変が五段活用に合流し、二段活用が一段活用に合流したのと同じように、「ら」抜き言葉のような「正しくない」表現も、いつか「正しい」表現になるのだろうなと思う。「本来の」表現はあっても、「正しい」表現はどんどん変遷していく。でも、「正しい」を維持しようとする姿勢は、生命としての日本語のホメオスタシスを見ているようで微笑ましい。