音楽と言葉5
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声を媒体とする音楽と言葉について考えたとき、
これらをコミュニケーションに用いるためには、
情報伝達の確実性を高める必要があり、それは
媒体である声を安定させることで達成される。
音には強弱、高低、音色の三要素があるとされ、
物理的には、それぞれ振幅、波長、周波数特性に
対応するが、これらはすべて情報の符号化に
用いることができる。
声の安定性とは、発声におけるこれら三要素の
再現性の高さのことである。
三要素の再現性は、
- 音の強弱の場合は呼気
- 音の高低の場合は声帯の伸び縮み
- 音色の場合は口腔や鼻腔等の形状
のコントロールにかかっており、声を媒体にした
コミュニケーションが発達するためには、横隔膜、
声帯、口まわりの筋肉の発達が欠かせなかったはずだ。
古今東西のあらゆる発声行為が、音楽であるか言葉
であるかによらず、ほとんど立位あるいは座位で
行われるのは、横隔膜、肺、気道、声帯、口と鼻が
この順に鉛直上向きに並ぶことが、安定した発声に
有利だからだと考えられる。
声を発するときには、まず声帯において基準となる
高低と強弱を有する音が作られ、その後口や鼻で
これらが変化すると共に音色が調整される。
この発声順序を考慮すると、音色が一定で、高低と
強弱が変化する声の方が、その逆に高低と強弱が
一定で音色が変化する声よりも、遥かに自然だと
思われる。
声のある特性によって情報を符号化するには、
その特性が可変であることが必要であることから、
おそらく声の高低と強弱による符号化方式の方が、
声の音色による符号化方式よりも先に誕生したと
推測される。
この二つの符号化方式を比べたとき、前者を音楽、
後者を言葉と呼ぶのはあながち大外れでもない。
現代では、音楽にも音色が要素として含まれるし、
その逆もまた然りであるから、言葉よりも音楽が
先に生まれたと言うのははばかられるように思う。
最初期の声によるコミュニケーションは、音楽とも
言葉ともつかず、両者の共通祖先となるようなもの
だったとみなすのが妥当だろう。
ただ、その原初的な声は、どちらかと言えば音楽的な
プロパティを先に獲得し、言葉的なプロパティを
後で獲得したと推測するくらいのことは、しても
よいように思われる。
p.s.
そう言えば、万国共通で新生児の泣き声はおおよそ
Aの音であるらしい。
新生児は筋肉がそれほど随意に動かせないとすれば、
声は声帯の大きさと口腔や鼻腔の形状でほぼ決まる
だろうから、新生児の体格がほぼ一緒であることを
反映しているだけだろう。