断片的なものの社会学


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岸政彦「断片的なものの社会学」を読んだ。

判断できない状態を避けようとして、世界を分かつことでわかろうとせずにはいられない。わかりやすくしようとすればするほど、状況はシンプルな一つの物語へと削ぎ落とされ、世界はのっぺらぼうに分かたれる。こうして世界の一次近似としてマジョリティが現れるプロセスの暴力。でも、それをしないでいては暮らしが成り立たない。

人間の処理能力は、世界を圧縮せずに把握できるほど高くない。
An At a NOA 2018-12-15 “抽象の力

分かつことが集団を壊死に近付ける一方で、分かつことをあきらめれば集団は瓦解に向かう。壊死と瓦解の話を書いてから、もう二年半が経つのか。その一年ほど前から、ずっとこのことを考え続けている気がする。

断片的なものがなくなった世界はユートピア=ディストピアであり、そこは物質感がなくとてものっぺりした世界だろう。dataからinformationへの圧縮の仕方が一意に決められてしまい、除数を変えて割り直すことのできない世界。とてもシンプルで究極的にわかりやすい世界だが、そこに人間がいることを想像するのは難しい。

割りっぱなしでもなく、割らないのでもなく。割り切れないものをどう割るかの試行錯誤。それを文章にするのはとても難しいと思うのだが、よい本であった。