人と貝殻
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ポール・ヴァレリー「人と貝殻」を読んだ。
このエッセイには透明感がある。
                    天才の空っぽさに通ずる透明感だ。
貝殻を前にして繰り返される素朴な問い。
いったい、だれがこれを作ったのだ ポール・ヴァレリー「人と貝殻」
「ヴァレリー・セレクション〈下〉」p.157
このあまりに人間的な問いに、意識による理由付けの有り様が
                    集約されている。
                    shapeは背後にcreationを暗示する。
固体から、液体の相を経て、固体へと移る《生きた自然》は、
                    収束と発散のあいだで揺れながら、一つの全体をなす。
                    貝殻の形成過程もその一つだ。
「因果律」にしむけられてそれを「理解」することによって、
                    有用性、《完成した》、必要性、《偶然》、理由、意図、…、
                    その他もろもろの人間的な説明が生まれ、《生きた自然》の
                    非線形性は線形性の組み合わせへと解体される。
「理解」することを通して、私は貝殻の形成過程を、その
                    《生きた自然》を、果たして捉えられたのであろうか。
たとえ結論にはいたらずとも、貝殻に呼び寄せられた多くの思考
                    との戯れが、一つの《生きた自然》をなすように思われる。