食人の形而上学
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エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ「食人の形而上学」
                    を読んだ。
「アンチ・ナルシス」という、とうとう世に出ることの
                    なかった書物についての紹介というかたちをとることで、
                    「アンチ・ナルシス」という構想は成立し得るのだろう。
                    元の書物が不在であることによって特定の分割線への
                    収束を回避し、「アンチ・ナルシス」が成立している
                    と見れば、それは松岡正剛が「擬」で取り上げていた
                    磯崎新の「始源のもどき」にも通ずるように思う。
                    西洋で培われてきた学問という伝統が、道徳として
                    一貫性を求めるために「大いなる分割」を不可避なもの
                    にしてしまうのであれば、未分化な状態について言及する
                    にはこういった抽象の重ね塗りが必要なのかもしれない。
別様の理由付けや意味付けがあり、それぞれの範囲も
                    変わり得るという「多文化と多自然」という見方。
                    抽象自体がそもそも、複合的なもの、二重にねじれた
                    ものであり、「理由付けと意味付け」という分割も
                    また一つの抽象でしかない。
                    ひとつひとつの抽象はもちろん分割を設定するが、
                    翻訳、擬、抽象による分割の重なり、交換、循環が、
                    大いなる分割のないリゾーム的多様体となる。
                    松岡正剛はそれを「世」と名付けた。
                    おそらくそれは、一つの視点から抽象すればするほど、
                    かえって遠ざかってしまう類のものである。