不気味の谷
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センサが情報を圧縮することが認識であるという
                    理解に基づくと、いわゆる「不気味の谷」と呼ばれる
                    現象は、外部過程による圧縮が当該センサの圧縮過程
                    との齟齬を起こしている状態だと理解できる。
外部過程がある記号を付与するために圧縮した情報が、
                    受信側のセンサにおけるその記号に対する圧縮方式と
                    完全に一致していれば、それはもはや現実と見分けが
                    つかない。
                    そこに差異がある場合には、差異が大きすぎる場合には
                    その記号として認識されず、ある程度近づくと、その記号
                    として認識されるが、齟齬が生じるという段階に至る。
                    この段階において、その差異がさらに小さい領域では、
                    受信側が圧縮過程の修正を施すべきかという判断に迫られる。
                    その判断に迫られつつ、棄却されるケースを指して、
                    「不気味の谷」と呼んでいると言える。
近さの尺度を設定するには距離空間である必要があるが、
                    適切なノルムは人によっても、その情報の形式によっても変わる。
                    例えば、精巧につくられた人間の模型は、写真で見る場合と
                    直接見る場合とではノルムの取り方が変わるだろう。
                    視覚センサによって規定されるノルムに対しては不気味の谷を
                    超えて実物と見紛うものでも、聴覚、触覚等の他のセンサで
                    測った距離が大きすぎているのであれば、実物とは認識されない。
果たしてそういった尺度は一意に存在するだろうか。
                    その尺度の一意性が成立する範囲のことを、個人と呼ぶのかもしれない。
圧縮過程の齟齬が認識の不具合を引き起こすのだとすれば、
                    どれだけ精巧に作られたCGよりも、一節の文が勝ることが
                    あるというのも無理からぬことである。